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2022/09/13 顧問先の皆様へ

特許訴訟裁判例短信(令和4年4月~令和4年6月)

特許訴訟裁判例短信(令和4年4月~令和4年6月)

弁護士 森本晃生

 令和4年4~6月に出た特許訴訟の裁判例から注目すべきものをご紹介いたします。

1. 特許法102条2項の推定につき第三競合者の存在による相当因果関係覆滅の場合に102条3項を重畳適用できるか(下級審裁判例対立)

 令和元年度特許法改正による特許法102条1項2号の新設時に起草者(特許庁)は、競合品の存在による推定覆滅時にも同号が適用され、覆滅部分について相当実施料額の損害賠償が認められると解説しており、当時、特許法102条2項についても、今後同様に102条3項を重畳適用できるという理解がありました。
 この点、肯定的に判示する裁判例(被告が争わなかった事実は、法律問題につき結論を左右しません)が大阪地裁から出ました。

大阪地判令和4年6月9日令和元年(ワ)第9842号
(第21民事部 武宮英子裁判長/48期)
 以上の事情を総合的に考慮すれば、一定数の競合品の存在による推定覆滅がなされる・・・
 特許法102条2項の推定が覆滅された部分について、特許侵害行為と被告の受けた利益との相当因果関係が認められないとしても、当該部分について、特許権者は、特許権侵害の際に請求し得る最低限度の損害額として同条3項の適用により算定される損害額の賠償請求をし得るものと解される(この点につき被告も争っていない。)。

 他方、その直後、知財高裁は、反対の趣旨の判決を出しております。

知財高判令和4年6月20日令和3年(ネ)第10088号・令和4年(ネ)第9113号
(第4部 菅野雅之裁判長/37期)
 被控訴人は、・・・競合品の存在を理由とする特許法102条2項の推定覆滅に相応する侵害品の譲渡数量に対して、同条3項を重畳適用して、被控訴人の許諾機会の喪失に係る逸失利益を想定すべきである旨主張する。
 しかし、競合品の存在を理由とする同項の推定の覆滅は、侵害品が販売されなかったとしても、侵害者及び特許権者以外の競合品が販売された蓋然性があることに基づくものであるところ、競合品が販売された蓋然性があることにより推定が覆滅される部分については、そもそも特許権者である被控訴人が控訴人に対して許諾をするという関係に立たず、同条3項に基づく実施料相当額を受ける余地はないから、重畳適用の可否を論ずるまでもなく、被控訴人の主張は採用できない。

 なお、この事件の原審(大阪地裁ですが上記事件とは別の部)もやや違う論理で同じ結論を述べておりました。

大阪地判令和3年9月16日令和元年(ワ)第9113号
(第26民事部 杉浦正樹裁判長/48期)
 特許法102条2項及び3項の重畳適用については、・・・本件において同条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきものは競合製品の存在のみであるところ、被告による各被告製品の販売実績等と直接の関わりを有しないこのような事情に基づく覆滅部分に関しては、同条3項適用の基礎を欠く。

2. 特許法102条2項の推定につき、侵害者利益に寄与する他の特許発明の存在による相当因果関係覆滅の場合に102条3項を重畳適用できるか

 令和元年度特許法改正による特許法102条1項2号の新設時に起草者(特許庁)は、特許発明の付加価値寄与率による推定覆滅時には同号が適用されず、覆滅部分について相当実施料額の損害賠償が認められないと解説しており、特許法102条2項についても、同様に102条3項を重畳適用できないという理解がありました。
 この点、寄与の対象として付加価値ではなく売上という用語を用いておりますが、明確に判示する裁判例が東京地裁から出ました。本件は同じ特許権者の別の特許発明が存在するケースでしたが、第三者や侵害者の特許発明やその他の知財権が寄与しているケースでも同様の結論が予想されます。

東京地判令和4年5月13日令和2年(ワ)第4331号
(民事第40部 中島基至裁判長/48期)
 本件特許権の侵害における推定の覆滅は・・・本件各発明以外にも別件特許権が被告製品の売上げに貢献していた事情を考慮したものである。そのため、本件各発明のみによっては売上げを伸ばせないといえる原告製品の数量について、原告が、被告ジョウズに対し本件各発明の実施の許諾をし得たとは認められないというべきである。そうすると、当該数量について同条3項を適用して、実施料相当損害金を請求する理由を認めることはできない。

3. 特許法102条2項の推定につき、同一侵害製品について他の特許権にもとづく侵害訴訟上認定される損害賠償額は、推定を覆滅するか

 上記2の事件で、東京地裁判決は、別訴の認定「額」の控除ではなく、寄与率の問題として処理するアプローチをとりました。

東京地判令和4年5月13日令和2年(ワ)第4331号
(民事第40部 中島基至裁判長/48期)
 別件発明は、安価で耐久性のある製品を提供するものとして、本件各発明と相等しく、被告製品の付加価値を高め、顧客吸引力を有するものとして、被告製品の売上げに貢献しているものと認めるのが相当である。
 そうすると、別件発明による上記貢献の事情は、特許法102条2項の推定を覆滅する事情であるといえる。
これに対し、被告らは、別件訴訟において別件発明に係る侵害を理由として認容された損害額につき、本件訴訟で推定された損害額から覆滅されるべき旨主張するが、別件発明が被告製品の売上げに貢献した部分は、上記のとおり本件訴訟における推定覆滅の事情として考慮されているのであるから、被告らの主張は、上記判断を左右するに至らない

 なお、先に出た当該別件訴訟の判決の方は、未確定の判決内容は推定覆滅理由にならないと判示し、確定済みの場合には推定覆滅理由になり得る余地を残していましたが、額と寄与率のいずれで覆滅するかには言及しておりません。

東京地判令和4年1月27日令和元年(ワ)第20074号
(民事第29部 國分隆文裁判長/49期)
 被告は,別件訴訟において被告製品の販売が原告の別件特許権を侵害していると判断され,損害賠償請求が認容された場合,かかる認定がされたこと自体が,原告が被った損害の額についての推定を覆滅させる事情に当たると主張する。
 しかし,別件訴訟は,現在,東京地方裁判所において審理されている段階にあるから,別件訴訟において,原告の被告に対する損害賠償請求権の存在及びその損害額が確定しているものではない。このことは,別件訴訟において,受訴裁判所により別件特許権の侵害を認める心証が開示されたとしても同様である。このように,別件訴訟の審理が途上にあり,その最終的な判断がいかなるものとなるのかがいまだ確定していない段階にある以上,別件訴訟において被告製品の販売が別件特許権を侵害していると判断される可能性をもって,本件訴訟における推定覆滅事由と扱うことはできないというべきである。

4. 特許権者ではなくグループ会社が特許製品の販売を行っている場合に102条2項の推定は適用されるか。

 自らは特許製品の製造販売行為を行なっていない特許管理会社が原告となる事案で、102条2項の推定が許されるかが争点となった事案において、知財高裁は、資本上の支配関係にあるグループ全体で業務を分担しており、グループ統括会社の管理及び指示により、共同支配下のグループ会社が日本において特許製品の輸入販売事業を行っている場合には、102条2項の適用を認めました。

知財高判令和4年4月20日令和3年(ネ)第10091号
(第2部 本田知成裁判長/39期)
 特許法102条2項は、民法の原則の下では、特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには、特許権者において、損害の発生及び額、これと特許権侵害行為との間の因果関係を主張、立証しなければならないところ、その立証等には困難が伴い、その結果、妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして、侵害者が侵害行為によって利益を受けているときは、その利益の額を特許権者の損害額と推定するとして、立証の困難性の軽減を図った規定である。そして、特許権者に、侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には、特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。
・・・一審原告製品は本件特許権の実施品であり、一審被告製品1~3と競合するものである。そして、一審原告製品を販売するのはA2であって特許権者である一審原告ではないものの、・・・一審原告は、その株式の100%を間接的に保有するA1の管理及び指示の下で本件特許権の管理及び権利行使をしており、グループ会社が、A1の管理及び指示の下で、本件特許権を利用して製造した一審原告製品を、同一グループに属する別会社が、A1の管理及び指示の下で、本件特許権を利用して一審原告製品の販売をしているのであるから、・・・A1の管理及び指示の下でグループ全体として本件特許権を利用した事業を遂行していると評価することができる。そうすると、Aグループにおいては、本件特許権の侵害行為である一審被告製品の販売がなかったならば、一審被告製品1~3を販売することによる利益が得られたであろう事情があるといえる。
 そして、一審原告は、Aグループにおいて、同グループのために、本件特許権の管理及び権利行使につき、独立して権利を行使することができる立場にあるものとされており、そのような立場から、同グループにおける利益を追求するために本件特許権について権利行使をしているということができ、上記のとおり、Aグループにおいて一審原告の外に本件特許権に係る権利行使をする主体が存在しないことも併せ考慮すれば、本件について、特許法102条2項を適用することができるというべきである。  

5. 共同不法行為者の1人に対する前訴の訴訟費用を、別の共同不法行為者に対する後訴で損害賠償請求できるか。

 裁判所に納付する訴訟費用(いわゆる印紙代)及び送達費用(いわゆる郵券代)並びに提出書面のコピー代等は、裁判所が判決により認定する負担割合にもとづき、訴訟費用額確定処分により回収することとなっておりますが(民事訴訟費用等に関する法律)、共同不法行為の場合に、前訴の当事者でない者に対する後訴で、前訴でのかかる費用を損害賠償請求できるとした裁判例が現れました。
 なお、訴訟費用額確定処分は、訴額が巨大な大型訴訟を別にすると、代理人費用との関係で割に合わないので、企業間訴訟では稀です。

東京地判令和4年5月27日令和2年(ワ)第14627号
(民事第40部 中島基至裁判長/48期)
・・・原告は、Bとの関係においては、別件訴訟において民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものについて、別件訴訟に係る訴訟費用額等の確定処分を経て取り立てることが予定されているのであるから、原告が、もとより、これをBに対する不法行為に基づく損害賠償請求において損害として主張することは許されない(最高裁平成31年(受)第606号令和2年4月7日判決・民集74巻3号646頁参照)。
 もっとも、別件訴訟の当事者以外の者に負担を求める場合には、別件訴訟に係る訴訟費用額等の確定処分を経て取り立てることが予定されていないのであるから、上記の理が直ちに当てはまるものと解するのは相当ではなく、共同不法行為に係る損害賠償債務が連帯債務とされている趣旨に照らしても、原告は、被告との関係においては、上記費目のものについて、原告が、これを被告及びBに対する共同不法行為に基づく損害賠償請求において損害として主張することは、許されるというべきである。

6. 職務発明対価訴訟における関係会社からのロイヤルティ収入の取り扱い

 職務発明対価訴訟で、関連会社から受けたロイヤルティは実額ではなくアームスレングス取引の仮想ロイヤルティとして計算することを認めた裁判例が現れました(ただし、発明者が80%までの関係会社間割引を争わないとしたため、その限りで弁論主義が適用されています。)。

知財高判令和4年5月25日平成31年(ネ)第10027号
(第4部 菅野雅之裁判長/37期)
・・・旧法35条4項は、職務発明に係る相当対価の額は、その発明により「使用者等が受けるべき利益の額」及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない旨規定するところ、同項が「使用者等が受けるべき利益の額」と規定したのは、使用者等に対する権利承継時の客観的に見込まれる利益の額をいうものであり、発明の実施によって現実に受けた利益に必ずしも限るのではなく、自己実施等の場合を含め、使用者等が本来得ることのできた独占的利益を指すものと解される。
 これを前提として検討するに、SCEは、一審被告とSMEが共同出資して設立された会社であり・・・、一審被告がプレイステーションシリーズの製造及び販売に関し、フィリップス社との間で、それぞれの保有する特許のクロスライセンスを締結していれば、SCEは本件ジョイントライセンスプログラムにおいて改めてライセンス料を支払う必要のない一審被告の関連会社となり、こうしたクロスライセンス契約における一審被告の得た利益が「使用者等が受けるべき利益の額」となるといえるが、本件全証拠を検討してみても、一審被告がプレイステーションシリーズの製造及び販売に関してフィリップス社との間でクロスライセンスを締結したと認めるに足りず、むしろ、一審被告は、SCEに対し、プレイステーションシリーズの製造、販売又は開発等のために有用な一審被告保有の特許権(本件特許権1-5及び同2-1を含む。)等の実施許諾に関するライセンス契約(SCEライセンス契約)を締結して、SCEを他社ライセンシーより優遇して同社から対価を得ていることが認められる。
 このように、一審被告が、フィリップス社と共に運用する本件ジョイントライセンスプログラムのライセンス対象製品であるプレイステーションシリーズの製造販売に関して、SCEを同プログラムの関連会社としてではなく1ライセンシーとして扱っている以上、同プログラムが開放的かつ非差別的な条件でライセンスする、いわゆるオープンポリシーを採用している・・・ことからすれば、PS1のゲーム機本体及びゲームディスク、PS2のゲーム機本体の製造及び販売に当たって一審被告が本来得ることのできた独占的利益は、SCEがPとの間でプレイステーションシリーズの製造及び販売に関してライセンスを受けたものと仮定した上で、同ライセンスプログラムで定められたロイヤルティにより計算された額に一審被告の配分率を乗じたライセンス料額により算定した額(仮想積上げ方式)であるというべきであり、一審被告がSCEライセンス契約により現実に得た利益に限る必要はない。

7. 実施報奨金の支払による職務発明対価請求権の時効中断

 改正前の特許法及び改正前の民法の下での事案ですが、上記6の知財高裁判決は、社内規定による対価支払が相当対価に満たないと認定されたことを前提に、当該規定により、相当対価(現行法の相当利益)の消滅時効起算点(当該規定上の登録報奨及び実施報奨の具体的規定から、特許の設定登録時点又は発明の実施若しくは実施許諾された時点のいずれか遅い方と認定)より後に実施報償が支払われた場合、一部弁済による債務承認として、時効完成前であれば時効中断(現行民法152条では時効の更新)となり、時効完成後であれば時効援用を信義則で遮断するとしました。

知財高判令和4年5月25日平成31年(ネ)第10027号
(第4部 菅野雅之裁判長/37期)
・・・こうした発明考案規定では、職務発明により使用者等が受けるべき利益の額が多額にわたる場合であっても、それに比例しない等級に応じた金額しか支払われないものであるため、旧法35条4項の趣旨、内容に沿ったものとはいえない。
 このように、特に職務発明により使用者等が受けるべき利益が多額にわたる場合には、被告発明考案規定は、旧法35条4項の趣旨、内容に沿ったものとはいえないから、これに基づいて支払われる職務発明の対価は、同条3項及び4項所定の相当対価の一部であるにすぎない。
・・・上場企業であり、コンプライアンスの遵守を求められる一審被告は、前掲最高裁判決の説示を当然ながら知悉しているものというべきであるし、・・・多額のライセンス料がSCEからもたらされていたのであるから、それが旧法35条4項の規定に従って定められる相当対価の額に満たないことを、一審被告は当然ながら認識していたというべきである。
 そうすると、平成16年支払及び平成18年支払は、本件発明1-5及び同2-1の相当対価支払請求権の一部弁済に当たるものであり、債務の承認に当たるものというべきである。
・・・一審被告は、当時の被告発明考案規定によれば、平成18年支払及び平成16年支払はその年度までに得られた利益に関する貢献に対する実施報奨であり、その翌年度以降に得られた利益に関する相当対価支払請求権の債務承認とはならない旨主張するが、被告発明考案規定では、再審査の規定を含めて、実施報奨の評価の対象をその審査の時点までの貢献に限る旨の規定はなく、再審査の規定は、発明の貢献が当初の予測を超えて著しく高まった場合に評価の見直しを行うことを定めたものである・・・から、一審 被告の上記主張は理由がない。
・・・以上によれば、平成18年支払(本件特許1-5)は、時効完成後の債務の承認に当たるものであるから、一審被告は、本件特許1-5に係る相当対価支払請求権について、信義則上、時効の援用権を喪失したものとい うべきである。 また、平成16年支払(本件特許2-1)は、時効完成前の債務承認に当たるため時効の中断事由に当たり・・・

8. 自社製品により新規性喪失が認定されて敗訴した前訴侵害訴訟の提起及び追行が不法行為となるか

 裁判を受ける権利の保障上、訴訟の提起及び追行が不法行為となる場合は限られておりますが、冒認出願による特許権者が真の発明者から権利承継した者に対して侵害訴訟を提起して、反訴としての不法行為損害賠償請求が被疑侵害者側に認められた事案が過去にございます。
 証拠の評価による特許権者の認識の認定により結論が左右された事案ですが、限界事例として、特許出願前に自社製品で公然実施していたため、前訴で、新規性喪失の無効事由による権利行使不能の抗弁が成立した場合でも、前訴の提起及び追行が不当訴訟にならないとした裁判例が現れました。
 
特許権者が判決で認定されたよりも限定的なクレーム解釈をしていたこと、特許権者が自己の公然実施製品の構成について認識していたと認められないこと、事前に弁理士を交えた侵害検討を行っていたこと等から、「当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起した」(最三小判昭和63年1月26日民集42巻1号1頁)に該当しないと判断されました。ただし、新規性喪失による無効理由を認めた前訴第一審判決が出た後の控訴審の追行については、同一根拠で無過失を根拠づけられるのか疑問が残るところです。

東京地判令和4年6月3日令和元年(ワ)第33246号
(民事第29部 國分隆文裁判長/49期)
・・・こうした経過に照らせば、被告会社において、前訴の提起及び追行に際し、被告会社が本件特許出願以前に製造等していた水道メーターのマグネット歯車の本体の樹脂部材とマグネットとの間に間隙があるとは認識していなかったとしても不自然とはいえず、また、本件発明の請求項Eの「前記軸部の回転軸線方向に移動可能に間隙を確保して」について、単にマグネット歯車の本体の樹脂部材とマグネットとの間に、回転軸線方向に間隙が存在するというだけでは足りず、上記の均衡が保たれるような間隙であることが必要であると解釈していたとしても、不自然とはいえない。
 また・・・被告会社が平成22年10月8日付けで作成したマグネット歯車ユニットの図面には、「注記」として、「熱カシメ後の球R部先端から、かしめリブ先端までの寸法hは、0.5~0.9とする。」との記載がある。しかし、熱カシメによる場合には、寸法に多少のばらつきが生じることは避けられないものであるから、上記「注記」の記載は、そのようなばらつきを織り込んだものとみる余地があり、必ずしもマグネット歯車の本体の樹脂部材とマグネットとの間に間隙を生じさせることを指示する記載とまでは認められず、・・・被告会社の認識及び解釈と矛盾するものとまではいえない。
 以上に加え、・・。本件発明については、特許庁による審査を経て特許登録されたものであること、・・・被告会社においては、前訴の提起に先立ち、本件マグネット歯車が本件特許権を侵害するものであるか否かについて、現物を取り寄せ、弁理士を交えて検討したことなどを踏まえると、本件全証拠によっても、被告会社において、前訴の提起及び追行に際し、本件特許に新規性欠如の無効原因があると容易に知り得たものとは認めることはできないというべきである。
・・・以上によれば、被告会社による前訴の提起及び追行は、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くとまでは認められないというべきであるから、原告らに対する違法な行為とはいえない。同様に、被告Gが被告会社の代表取締役として前訴の提起及び追行に関与したことについても、原告らに対する違法な行為とはいえない。
 

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